子どもには見えて大人には見えない。
そう言った事はよくあるのかもしれません。
Kさんは釣りが好きで、休みの日にはよく2人の子どもをダシに釣りに出かけていたそうです。
その日は妻が同窓会に出かけた為、子どもたちと夕方から夜にかけて釣りに出かけました。
釣場に到着したのは17時頃。
一山越えた寂しい港で、堤防付け根に地元の方が竿を出している以外誰も居ません。
堤防先端に向かおうとした時、子どもたちが言いました。
「ここが良い」
堤防の付け根寄りが良いと言います。
地元の方も
「坊主、ようわかっとるなぁ。そこは釣れるで」
本気かからかっているのか、Kさんもとりあえずその場で釣りを始めました。
子どもたちの釣具を準備してやり、遊ばせていると、小魚がポツポツ釣れます。
まぁ楽しそうだから良いか…
暫くすると、辺りが暗くなり常夜灯がともりました。
地元の方も居なくなり、堤防にはKさん家族がいるだけです。
Kさんは先端で釣ってみたくて仕方ありません。
「先端に常夜灯があるから行ってみよう」
と子どもたちに言うのですが、子どもたちは
「ううん。もう帰る」と言います。
まぁまたの機会にするか…
そう思って子どもたちの釣具を片付け、車に積み込みます。
しかし、Kさんは欲が抑えられず、子どもたちに言います。
「5分だけ釣りしてくるから、車で待っといて」
子どもたちはDVDを観て待っていると言うので、堤防先端に向かいます。
堤防の中腹あたりに来た頃でしょうか…
Kさんは急に寒気を感じます。
更に先端にある常夜灯がやけに暗く見えるのです。
ふと足を止めた瞬間、
「子どもたちには…ずっと見えていたのにね……」
女の声が聞こえました。
まるですれ違いざまに囁かれるように。
Kさんは怖くなり、慌てて車に戻るとすぐに発進させました。
子どもたちが「どうしたの?」と尋ねてますが耳に入りません。
暫く車を走らせたKさんは、落ち着いて子どもたちに尋ねました。
「堤防に誰か居た?」
「女の人。座ってずっとこっちを見ていたよ」
「お父さんとこに歩いて来たけど、何か話したの?」
Kさんは察しました。
子どもにはずっと見えていたから堤防先端には行かなかったのだと…。
「海を見てたんだって」
Kさんは自分を落ち着かせるように子どもたちに答えたそうです。