デイアジ初心者の雑記帳

アジングを中心に、お手軽お気楽な釣りについて綴っています。

フェンスの向こう

昔からマナーの悪い釣り人は一定数いました。

KくんとWくんは不良仲間で、夜遊びも大好き。

ある時、暇潰しに夜釣りでもしてみるか?と言う話になり、訳もわからないまま道具を買い、人気の無い港までバイクを走らせました。

大きな倉庫が立ち並ぶ港でしたが、立入禁止ではなく、二人は倉庫の横から突き出している長い波止の先端で釣ろうと決めました。

波止に向けて歩いて行くと、フェンスが張ってあり、関係者以外立ち入り禁止の文字。

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フェンスには扉もついており、鍵が掛けられています。

「まぁまかせろ」

学生時代に自転車の盗難をしていたKくんには解錠など朝飯前。

あっと言う間に扉は開き、二人は中に入り波止先端を目指します。

他愛もない話をしながら二人が歩いてると、突然Wくんが立ち止まりました。

「なぁ…人がおらん?」

Kくんも眼を凝らしてみると、人かどうかはわかりませんが、かなり先の方に何かが動いて見えるのです。

「オレ達より先に入ったヤツが居るって事か?」

「わからん、関係者だったらめんどくせぇぞ」

そう話していると、先程まで見えていた何かが消えていました。

「鳥か何かだったんじゃね?」

先に行こうとするKくんでしたが、Wくんが引き止めます。

「何かわからんが、やべぇ気がする。引き返そう」

「ハァ?おまえビビってんの?」

Kくんは先に向かってどんどん進んで行きます。

Wくんも仕方なく後を追いますが、ふと気づくとKくんが何も喋りません。

「なぁ、K…」

呼び掛けてもKは返事をしません。

「おいK、聞いてるか?おかしくねぇか?波止の先端ってこんなに遠かったっけ?」

するとKが立ち止まり言うのです。

「遠かったっけ……」

「おいK!大丈夫か?」

「遠かったっけ……」

明らかにおかしいKに気づいたWくんは、Kくんを連れ戻そうと肩に手をかけました。

Kくんをこちらに向けた次の瞬間、Wくんは手を放しました。

Kくんの目に、海藻やヒトデなどが張り付き、口元は笑いながら言うのです。

「遠かったっけ……」

Wくんは恐怖で後ずさりしましたが、Kくんを見捨てる事など出来ません。

「おいK!しっかりしろ!」

そう言ってKくんに張り付いた海藻やヒトデを手で引き剥がします。

ただの海藻のはずなのに、ガムテープのように張り付いて剥がれません。

Wくんは力任せに引き剥がしました。

海藻が剥がれたKくんの顔を見たWくんは驚きました。

目が無いのです。

いや、そもそも眼窩もなく、腐ったような紫色の肌があるだけなのです。

「遠かったっけ…」

Kが笑いながら近づきます。

Wくんは恐怖で叫び声をあげながらフェンスのある入口へ走り出しました。

頭の中は混乱し、何が何だかわからないまま走りましたが、暫く走っても入口が見えてきません。

おかしいと思っていると後ろからKくんの声が聞こえます。

「遠かったっけ……」

Wくんは死にものぐるいで走りました。

 

どのくらい走ったでしょう……

目の前に明かりが見えました。

人か!?

よく見るとフェンスの向こうに警察のような格好をした人が居ます。

不法侵入でグチグチ言われるかもしれないが、今は兎に角この場を離れたかったWくん。

フェンスの扉を開けようすると、鍵がかかっています。

まさか警察が施錠したのか?

Wくんは警察に向かって叫びました。

「出してくれ!早く開けてくれ!」

気づいた警察が駆け寄ります。

「そこで何をしている!?」

「詳しく話すから鍵を開けてくれ!」

警察は鍵を開けようとします。

よく見ると、制服の袖はびしょびしょに濡れています。

海水がしたたり、袖口からカニが顔を覗かせるのです。

Wくんはフェンスから手を放しました。

警察はこう言います。

「その先で……こんな風にならなかったかい?」

帽子を取った警察はKくんと同じ顔をしていたのです。

Wくんは失神してしまいました。

 

気がつくと、5名の警察がWくんを覗き込んでいました。

「大丈夫か?何があった?」

周りにはパトカーが数台と救急車が到着しており、丁度救急車が出発するところでした。

「Kは!?Kは無事か!?」

「友達の事かね?彼は今運ばれたが、息はなかったよ」

そう警察に聞かされ、Wくんはかたを落としました。

明け方、釣りに来たおじさんから、フェンスの向こう側で人が倒れていると通報があったそうです。

Wくんはそのまま警察へ行き、昨夜あった事を話しました。

話を聞き終わると警察の人が一つ溜息をつき、次の話を始めました。

あの場所は昔から人気が無いから、密輸や麻薬取引の場として有名だったんだ。

そんな場所だが一般人も出入り出来るので、たまに無関係な人が現場を目撃する事もあった。

もちろん見られたからには生きて帰す訳にはいかないので、そのまま海に沈められたりする事件が後をたたなかった。

当然、死体は水深のある波止の方で沈める。

だからあの場所へはフェンスが張られたんだ。

おまえら若いモンは遊び半分かもしれんが、あそこはそう言う場所なんだよ。

亡くなった友人の顔を見たんだろ?

大体の目撃者は頭部や顔面を殴打されて海に沈められるんだよ。

一応殺人の疑いで捜査するが、状況からみて人が手をくだした事件ではない可能性の方が高い。

君達が昨日犯した不法侵入については問わないが、これに懲りたら法を犯すようなマネはするな。

それから数年、Wくんは立入禁止のフェンスを見る度に後悔の念に駆られるそうです。